間違ったハンバーグの作り方
一人暮らしを始めて既に五年目に突入している。不安とワクワクが綯交ぜになっていた、当初のあの感情はどこへやら。
一人暮らしと言えば、まず思い浮かべるのが自炊だろう。「一人暮らし=自炊」のイメージは未だ人々の中に根付いており、斯く言う私もその固定観念に囚われていた人間であった。然し実際ノリノリで自炊をしていたのは初めの3か月程度で、それからは鍋物等の作り置きできるものくらいしか料理していない。
抑々私が料理をすると碌なことにならないケースが多い。レシピ通りに作れば良いモノに要らぬ一手間を加えた所為で、料理が台無しになることが往々にしてある。
この性分は昔からのもので、小中学校時代の家庭科の調理実習でもその要らぬ好奇心を存分に発揮していた。
高校二年生の秋口。夕餉で一家団欒をしていた時のことである。
私の弟(当時中学二年生)が、今度家庭科の授業の調理実習でハンバーグを作るとのこと。
そしてハンバーグ作りの計画を立てていた際、家庭科の先生が弟に
「三年前にあんたの兄ちゃんが作ったハンバーグ、私はまだ覚えてるよ……」
と要らぬことを吹き込んだらしい。
当然、弟に「どんなハンバーグ作ったんだよ」と問い詰められた。
あれは忘れもしない、中学二年生の秋口(回想の回想)。
私達はハンバーグ作りの計画を立てていた。どの班も、如何にして自分たちのオリジナリティをハンバーグに表すか悪戦苦闘していた。
私の班は男三人。他の二人は圧倒的イエスマンで、私のアイディアを何でも受け入れた。
「パイナップルとか乗っけるか、酢豚みたいに」と私が言うと、
「いいんじゃね」と二つ返事で、彼らは何でも首肯した。今思えばこの段階で止めて欲しかった。
ここで私の脳に未曽有のインスピレーションが。
鮮やかな青空。
紺碧の海。
色とりどりの果実。
そう、それは正に南の国。
何故かハワイアンな光景が脳裏を過り、私は何とかこのイメージをハンバーグに投影できないか思索に耽った。
熟慮の末、私は口を開けこう言った。
「緑色のソースを掛けて、トロピカルなハンバーグにしよう。ソースの味はメロン味でいいか?」
私の突飛極まりない問いかけに、二人は
「まぁ、いいよ」
と快諾した。
話し合いの末ソースは、かき氷のメロンシロップに片栗粉を混ぜて餡にしたものをハンバーグにぶっかけることにした。
満を持しての調理実習当日。
私達の班のテーブルの上にはパイン缶、片栗粉、メロンシロップと、到底これからハンバーグを作るとは思えない食材が並んでいた。
まずはハンバーグを作る。こちらは文句なしに上手く出来た。
私達にとってはここからが本番。
取り敢えずハンバーグにパイナップルを盛る。一人前に輪っか三枚ぐらい乗せる。
そしてソース作り。片栗粉とメロンシロップを混ぜる。
ここで問題発生。
ソースがトロトロにならない。
どれだけ混ぜてもサラサラのまま。
そう、片栗粉でとろみを出すためには加熱しなければならない。
然しそんなことを全く知らない私達は
「量が足りないんじゃないか?」
と、片栗粉をドバドバ入れた。
一向にトロトロにならない緑色の液体を前に我々は周章狼狽した。
この時、班員のE藤が奇跡を起こす。
彼は「火にかけてみよう」と言い、涙目の私をよそに鍋に液体を入れて熱した。
すると見事にとろみが!
私達は抱き合って喜んだ。
漸く思い描いたハンバーグを作ることができる。
然し様子がおかしい。
トロトロの液体の粘性がどんどん高まっている。
その姿は宛らバブルスライムのよう。
↑参考:バブルスライム
「おい、ちょっと固まりすぎじゃないか!!?」
バブルスライムはあれよあれよと凝固を進め、最終的に鍋には緑色のボールが転がっていた。
「なにコレ!!?」
「きんもー!!!」
気が付くと鍋の周りは、 私達の班で爆誕したモンスターを見に来た他の班の生徒でごった返していた。
「それちゃんと食えよ!」
「残すなよ!」
彼等は私達を嘲り笑い去っていった。
もう食うしかない。覚悟を決めた私はスライムベホマズンを引きちぎって三等分して、夫々ハンバーグの上に乗ったパイナップルの穴に埋め込んだ。
↑参考:スライムベホマズン
全ての班のハンバーグが完成し、愈々この未知の料理を食す時が来た。
一同「いただきま~す!」
パク
ネチョ
モニョ
モッチャァ
「これは、ねぇよ!!!」
比較的おとなしいもう一人の班員、M本がブチギレた。私もキレた。
E藤は壊れたらしく、高笑いを上げながら食っていた。
銘々の班がハンバーグの交換を楽しむ中、私達の班のハンバーグを貰っていく者は誰一人いなかった。
料理はレシピ通りに作るのが一番だって、はっきりわかんだね