THE LAUGHING WOLF

便所のお供に、是非。

物語に於ける創作漢字

名作『もののけ姫』に用いられている楽曲の一つに『アシタカせっ記』と云うものがある。

 

 

「せっ」の部分は上のような字を書くのだが(アンサイクロペディアから拝借)、これは宮崎駿の造字であり、また「せっ記」と云う言葉も宮崎駿の造語である。単語は「草に埋もれながら人の耳から耳へと語り継がれていく物語」と云う意味で、漢字はこの意味から創られた会意文字であると言える。

因みに宮崎駿は映画のタイトルを『アシタカせっ記』にしようとしたが、プロデューサーが『もののけ姫』で押し通したという。アシタカせっ記のままだったら色々めんどくさいことになってただろうなぁ(unicodeに漢字が存在しない的な意味で)。

 

小学校高学年の頃にジブリのピアノ楽譜を友人の家でボーッと見ていたらこの字に出くわして、家に帰って漢字字典を開いたものの字が見つからずに結局もやもやしたままだったのだが、最近詳細を知って漸くすっきりした。そりゃ字典に載ってないわけだ。

 

 

物語の為に創作された漢字と言うと、魯迅の『故郷』に出てくる猹(チャー)が思い出される。

物語に因ると猹はアナグマに似た、西瓜を食べに来る生き物であるとのこと。

実際は架空の生物で、「猹」の字も魯迅が地元の人の発音から造った字である。恐らくアナグマの方言名だったのではないかと邪推。

 

私が中学生の頃教科書で読んだ時この字は「獣偏に査」であったことをはっきり覚えているが、何故かその字はパソコンでは出てこない。声符としても旁は「査」であるべきだと思うのだけれど。

 

 

創作漢字ではないが、夏目漱石は当て字を好んで用いたことが知られている。

浪漫(ロマン)などの当て字は夏目漱石が考案者であると言われている。

 

 

このように、物語を紡いでいく上で新たな漢字文化が形成されていくことは大変興味深い。造語を用いた物語と云うのは然程珍しくないが、新たに漢字を創ってまで語られる話には却々巡り合うことができない。

 

 

閑話休題、創作漢字は一昔前から趣味の一つとして、多くの暇を持て余した中高年の方に親しまれている。創作漢字コンテストも凡ゆる媒体で開催されているのを見掛ける。こうした娯楽としての創作漢字の歴史は古く、かの式亭三馬も『小野●譃字盡(おののばかむらうそじづくし)』(●は竹冠に愚)と云う創作漢字の書物を出している。

 

然しこういった謂わば「お遊び」で作られた漢字と、先に挙げた物語に用いる為に創られた漢字とでは字に込められた重みが断然違ってくる。特に初めに挙げた「せっ記」に至っては、最早「せっ記」と云う言葉だけで『もののけ姫』と云う作品全てを背負っていると言っても過言では無い。

 

苗字にも創作された漢字を使ったものが数こそ少ないが存在する。

一文字に多分に思いを込めた漢字が新たに創られるのなら、その字は一つの文化として後世にも遺されていくべきだと思う。

 

 

 

 

アンサイクロペディア久石譲の項目見たら「ハゲ」しか書いてなくて草生えた