THE LAUGHING WOLF

便所のお供に、是非。

カレーうどん

自分が今住んでいるアパートのすぐそばに、モンマートばりの三流コンビニがある。徒歩15秒くらいの距離なのだが何と言っても三流なので、普段は自転車を二分程漕いだところにあるサークルKに行っている。

 

このコンビニの唯一評価できる点は、冷凍のカレーうどんが売っていることである。昨年の暮れに自分はこのカレーうどんに心底嵌まってしまい、ここ4ヶ月の間、3日に1回のペースでカレーうどんを買いに行っている。

 

先月、いつものようにカレーうどんをレジに持って行くと、レジのおばちゃんが

『御実家には帰られるんですか?』

と声を掛けてきた。

 

『明日帰るんですよー』

と返したものの、心中は穏やかではなかった。

 

金髪の若者が足繁く三流コンビニにカレーうどんを買いに来ていたら、そりゃ覚えてしまうだろう。しかし自分は「店員に顔を覚えられた」と云う事実に戦慄した。おばちゃんに「ああ、あの金髪の子またカレーうどん買いに来たんだわ」と思われている、と云うのが心底恥ずかしかった。何故か下宿生であることも見抜かれているし。

 

この日を切っ掛けに、自分はレジの人がおばちゃんであるかどうか、外から確認した上でそのコンビニに入るようになった。極力おばちゃんとのエンカウント数を上げないようにして、カレーうどんを買い続けた。

 

今日芝居の稽古が終わり、自分の腹がカレーうどんを求めていたので、レジ担当がおばちゃんで無い事を祈りつつ帰り際にそのコンビニに寄った。案の定おばちゃんがいた。

 

(あ、あの子またカレーうどん買いに来たのかしら)

 

おばちゃんの心の声が聞こえてくる。

 

おばちゃんの思惑通りに動くもんか、と自分は一人で勝手に躍起になり、カレーうどんではなく弁当をレジに持っていった。

 

(勝った…!!)

 

自分は勝利を確信した。まさかグリルチキン弁当を買うとは思いもよらなかっただろう。レジを打つおばちゃんの顔が心なしか翳って見える。

 

会計を済ませるとおばちゃんが徐に口を開き

『あ、レジ袋がないから取ってくるね』

と宣った。

 

おばちゃんが事務所に袋を取りに行こうとしたが、家はすぐそこなので

『このままで大丈夫ですよ』

と言った。

 

するとおばちゃんは

『え、本当にいいの?』

と面食らった表情をし、

『じゃあ、袋の代わりにこれあげるね』

と、棚に置いてあった210円のサンドイッチをくれた。

 

『え、そんな、いいんですか』

周章狼狽する自分をよそにおばちゃんは微笑んでいた。

 

『ありがとうございます!!』

頭を下げ、自分は店を出た。

 

おばちゃんはめちゃくちゃ良い人だった。

今まで思い煩っていたことが馬鹿馬鹿しく思えた。

これからも、あのコンビニでカレーうどんを買い続けようと思った。

 

 

追伸:グリルチキン弁当は全然美味しくなかった